病院経営

病院経営者必見!スムーズな譲渡・事業承継の進め方とは?その1

1. 病院譲渡・事業承継の基礎知識

病院経営者が高齢化し、後継者不足が深刻化する中、病院の譲渡や事業承継が大きな課題となっています。医療機関の経営は一般の企業とは異なり、専門的な知識や許認可が必要であり、引き継ぎには慎重な計画が求められます。ここでは、病院譲渡・事業承継の基本的な概念を整理し、経営者が適切な判断を下せるよう詳しく解説します。


1-1. 病院譲渡とは何か

病院譲渡とは、病院の運営権や経営資源(医療機器、スタッフ、診療ノウハウなど)を第三者に引き渡すことを指します。主に M&A(合併・買収) という形で行われることが多く、譲渡元は経営から退き、新たな運営者に病院経営を引き継ぐことになります。

病院譲渡が行われる主な理由

  • 後継者不在:病院経営者の高齢化が進み、家族内に適切な後継者がいないケースが増加。
  • 経営難:診療報酬の減少や患者数の減少により、経営が厳しくなった病院が事業を継続するために譲渡を選択。
  • 経営統合・拡大:より大きな医療グループに統合することで、病院の経営基盤を強化し、医療サービスを充実させる目的。

病院譲渡には、譲渡先が個人、法人、医療グループなどさまざまな形態があり、どのような相手に引き継ぐかによって、病院の今後の方向性が大きく変わります。


1-2. 事業承継の重要性と背景

事業承継とは、病院経営を次世代の経営者に引き継ぐことを指します。病院を継続的に運営するためには、単なる経営権の引き継ぎだけでなく、診療方針や組織文化、患者との信頼関係を維持することが重要です。

事業承継が重要視される背景

  • 医療の継続性の確保:地域医療を支える病院が突然閉院すると、住民の医療アクセスが制限されるため、適切な承継が求められる。
  • 従業員の雇用維持:医師や看護師、事務スタッフなどの雇用を守るため、計画的な承継が必要。
  • 経営ノウハウの継承:病院運営には特殊なノウハウが必要であり、スムーズな引き継ぎがなければ運営が困難になる。

事業承継の方法には以下の3つがある

  1. 親族内承継(子供や親族が病院を引き継ぐ)
  2. 従業員承継(病院で働くスタッフや医師が経営を引き継ぐ)
  3. 第三者承継(外部の医療法人や企業が病院を引き継ぐ)

病院の存続と地域医療の維持のため、早期に承継計画を立て、適切な後継者を選定することが求められます。


1-3. 病院譲渡と事業承継の違い

病院譲渡と事業承継は似た概念ですが、引き継ぎの方法や目的に違いがあります。

項目病院譲渡(M&A)事業承継
目的病院の経営権を第三者に売却し、新たな経営者のもとで運営病院を継続しながら経営権を後継者に引き継ぐ
主な方法M&A(合併・買収)、医療法人の売却親族承継、従業員承継、第三者承継
対象個人、法人、医療グループ親族、院長の右腕となる医師や従業員
主なメリットすぐに経営から退ける、売却益を得られる病院の経営理念を引き継げる、患者やスタッフとの関係性を維持
主なデメリット経営方針が変わる可能性がある承継者の育成に時間がかかる、経営スキルの継承が必要

どちらを選ぶべきか?

  • すぐに経営から退きたい、病院を売却したい場合病院譲渡(M&A)
  • 病院を存続させ、長期的な経営を維持したい場合事業承継

病院の譲渡や事業承継は、単なる経営の引き継ぎではなく、地域医療の未来にも大きな影響を与える重要な決断です。後継者が決まっている場合は事業承継を、後継者不在や経営難の場合は病院譲渡(M&A)を検討することで、最適な選択ができます。どの方法を選ぶにせよ、計画的な準備と専門家のサポートが欠かせません。

次の章では、病院譲渡・事業承継の具体的な方法について詳しく解説していきます。

2. 病院譲渡・事業承継の主な方法

病院の譲渡・事業承継には、「親族内承継」「従業員への承継(MBO)」「第三者への譲渡(M&A)」 の3つの選択肢があります。それぞれの方法には、異なるメリットやリスクが伴うため、病院の経営方針や状況に応じた適切な選択が求められます。以下では、各方法の特徴と手続きの流れについて詳しく解説します。


2-1. 親族内承継

2-1-1. メリットとデメリット

メリット
経営理念の継承がしやすい → 家族内での引き継ぎのため、病院の方針や価値観を維持しやすい。
従業員や患者の信頼を維持 → 院長が変わっても、スタッフや患者との関係が大きく変わらないため、スムーズな引き継ぎが可能。
税制優遇措置の活用 → 事業承継税制を利用すれば、相続税や贈与税の負担を軽減できる。

デメリット
後継者の経営能力が不足する可能性 → 医師としての能力は高くても、経営のスキルを十分に持っていないケースが多い。
相続・財産分配の問題が発生する → 他の相続人との間で財産分配に関するトラブルが起こる可能性がある。
後継者の意思を尊重する必要がある → 後継者が病院経営に関心を持たない場合、無理に継がせると経営がうまくいかないことがある。


2-1-2. 手続きの流れ

① 後継者の選定 → 適切な後継者(親族)を選び、経営者としての適性を評価する。
経営ノウハウの引き継ぎ → 段階的に経営の実務を学び、実践経験を積む。
相続・贈与に関する手続き → 事業承継税制を活用し、税負担を抑えるための対策を行う。
許認可の変更手続き → 医療法人の理事長交代、診療所・病院の管理者変更などを行う。
従業員・取引先への説明 → 病院のスムーズな運営継続のため、関係者に承継計画を説明する。


2-2. 従業員への承継(MBO)

2-2-1. メリットとデメリット

メリット
病院の方針を維持できる → 現場を熟知した医師や管理者が引き継ぐため、病院の方針や診療スタイルを大きく変えずに済む。
従業員の雇用が守られる → 病院を熟知した内部の人間が経営を継続するため、従業員にとって安心感がある。
第三者への譲渡に比べて調整が容易 → 外部の買収企業に譲渡する場合と比べ、内部の人間との交渉はスムーズに進めやすい。

デメリット
後継者の経営スキルが不足する可能性 → 医師としての経験は豊富でも、経営の知識が不十分なケースが多い。
資金調達が必要になる → 従業員が病院を買い取るために、多額の資金が必要になる可能性がある。
経営責任が重くなる → 経営が軌道に乗らなければ、後継者自身の負担が大きくなるリスクがある。


2-2-2. 手続きの流れ

① 後継者(従業員)の選定 → 経営者としての適性を評価し、意欲のあるスタッフを後継者候補にする。
資金計画の策定 → 従業員が病院を買収するための資金調達方法を検討(金融機関からの融資、投資家の支援など)。
経営研修・引き継ぎ準備 → 実際に経営に関わる機会を増やし、経営スキルを身につける。
契約手続きと登記変更 → 事業譲渡契約を締結し、法人の登記変更を行う。
許認可の変更と関係者への説明 → 医療法人の理事長交代や従業員・取引先への周知を行う。


2-3. 第三者への譲渡(M&A)

2-3-1. メリットとデメリット

メリット
後継者がいなくても病院を存続できる → 親族や従業員に適任者がいない場合でも、第三者に譲渡することで病院の継続が可能。
売却益を得られる → 病院を売却することで、経営者はまとまった資金を得ることができる。
経営基盤の強化が期待できる → 大手医療法人や企業に買収されることで、病院の設備投資やサービス拡充がしやすくなる。

デメリット
経営方針が大きく変わる可能性 → 買収先の方針により、病院の運営方針やスタッフの待遇が変わることがある。
患者や従業員の反発が生じる可能性 → 突然の譲渡によって、患者や従業員が不安を感じることがある。
売却までに時間がかかる → M&Aのプロセスには数ヶ月から数年かかることもある。


2-3-2. 手続きの流れ

① M&Aの専門家に相談 → M&A仲介会社や経営コンサルタントに相談し、譲渡の準備を始める。
売却先の選定 → 医療法人・投資ファンド・病院グループなど、最適な買い手を探す。
事業デューデリジェンス(精査) → 病院の財務状況や経営状態を調査し、適正な価格を設定する。
売却交渉と契約締結 → 買い手と条件交渉を行い、最終的な契約を締結する。
事業引き継ぎと許認可変更 → 病院運営をスムーズに引き継ぐための手続きを完了させる。


病院譲渡・事業承継にはさまざまな選択肢があります。どの方法が最適かを見極め、計画的に進めることが成功のカギとなります。

3. 病院譲渡・事業承継の具体的な手続き

病院の譲渡や事業承継を成功させるためには、計画的に準備を進め、適切な評価や契約を行い、関係者との調整を慎重に行うことが重要です。ここでは、スムーズな譲渡・承継を実現するための具体的な手続きを解説します。


3-1. 事前準備と情報収集

病院譲渡や事業承継をスムーズに進めるためには、 事前準備と十分な情報収集 が欠かせません。適切な準備を行うことで、売却価格や交渉の方向性を明確にし、最適な譲渡先を見つけやすくなります。

① 経営状況の整理

まず、病院の 財務状況・経営状況を整理 し、譲渡の際のリスクや課題を明確にすることが重要です。具体的には、以下のようなデータを揃えます。

  • 財務諸表(貸借対照表・損益計算書など)
  • 診療科目ごとの患者数や売上推移
  • 設備や医療機器の資産リスト
  • 人員配置やスタッフの雇用状況
  • 未払いの負債や契約状況

② 適切なアドバイザーの選定

病院譲渡は専門的な手続きが多いため、M&A仲介会社や医療コンサルタント、弁護士・税理士などの専門家のサポートを受けることが重要です。信頼できるアドバイザーを選ぶことで、交渉や手続きを円滑に進めることができます。


3-2. 病院の評価と査定方法

病院の譲渡価格を決定するためには、 適切な評価と査定 を行う必要があります。適正な価格を設定することで、買い手との交渉がスムーズに進みます。

① 病院の価値を決める主な要素

病院の査定額は、以下の3つの観点から評価されます。

  1. 財務的価値(純資産・利益)
    • 過去数年の売上や利益、負債の状況を分析し、病院の財務的価値を評価。
  2. 事業価値(収益性・成長性)
    • 診療科目ごとの収益性、将来の成長見込み、患者数の推移などを考慮。
  3. 市場価値(立地・ブランド力)
    • 病院の立地条件、地域での評価、競合との差別化ポイントなど。

② 具体的な査定方法

病院の評価方法には、主に以下の3つの方法があります。

  1. 純資産価値法
    • 病院が保有する不動産、医療機器、設備などの資産から負債を差し引いた価値で評価。
  2. 収益還元法
    • 将来的に見込まれる収益を基に、病院の価値を算出。
  3. 市場比較法
    • 同規模の病院譲渡事例を基に、売却価格の相場を算出。

適切な評価を行うことで、買い手との交渉をスムーズに進めることができます。


3-3. 契約書の作成と締結

病院の譲渡を正式に進めるためには、 契約書の作成と締結 が必要です。契約の内容を明確にすることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

① 契約書に含めるべき主な項目

病院譲渡契約書には、以下のような項目を明確に記載します。

  • 譲渡対象(病院名、設備、スタッフの引継ぎなど)
  • 譲渡価格と支払い条件(分割払い・一括払いの条件)
  • 負債の引継ぎに関する取り決め
  • 従業員の処遇(雇用継続・給与条件など)
  • 診療科目や経営方針の変更の有無
  • 競業避止義務(譲渡後、元経営者が同じ地域で新規開業することを防ぐ条項)
  • 契約解除の条件(契約違反があった場合の対応)

② 契約締結までのプロセス

  1. 基本合意書の作成 → 交渉の初期段階で基本的な条件を取り決める。
  2. デューデリジェンス(詳細調査) → 買い手が病院の財務や運営状況を確認。
  3. 最終契約の締結 → 交渉内容を反映し、正式な契約書を作成。
  4. 譲渡の実行 → 契約締結後、病院の運営を引き継ぐ。

契約の内容に不備があると、譲渡後にトラブルが発生する可能性があるため、弁護士や専門家のチェックを受けることが推奨されます。


3-4. 関係者への通知と調整

病院の譲渡・事業承継を円滑に進めるためには、患者や従業員、取引先との調整 を慎重に行う必要があります。

① スタッフへの通知と対応

病院の譲渡は従業員の雇用に影響を与えるため、早めに周知し、不安を払拭することが大切です。

  • 従業員説明会を開催し、譲渡の背景や今後の雇用方針を明確に伝える
  • 新経営者とのコミュニケーションの場を設け、円滑な引き継ぎを進める
  • 待遇変更の有無を事前に説明し、従業員のモチベーションを維持する

② 患者・地域住民への説明

病院の譲渡により診療体制やサービス内容が変更される場合、患者や地域住民への影響を最小限に抑える努力が必要です。

  • 病院の公式サイトや院内掲示板を通じて、譲渡の経緯と今後の方針を説明
  • 地域住民との信頼関係を維持するため、説明会を実施する
  • 診療体制が変更される場合は、事前に十分な告知を行う

③ 取引先・行政機関との調整

医療機器の供給業者や金融機関、自治体など、病院運営に関わる関係者との調整も重要です。

  • 契約の継続・変更に関する交渉を事前に行う
  • 必要な許認可の変更手続きを適切に進める
  • 新経営者がスムーズに事業を開始できるよう調整する

病院譲渡・事業承継を成功させるためには、事前準備を入念に行い、適正な評価を基に契約を締結し、関係者との調整を円滑に進めることが重要です。これらの手続きを慎重に進めることで、病院の存続と地域医療の安定を確保することができます。

病院の譲渡に関してはさまざまな調整が必要となります。

次回は病院譲渡・事業承継に伴う税務と法務のポイントをお届けします!

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